子どもを持つ母親の大きな助けとなる「母子生活支援施設」ですが、一生入所して暮らしていられるわけではありません。どんなに長くても子どもが18歳を迎えた年の年度末までには退所しなくてはならないのです。
よほどの事情がない限り、多くは1~3年ほどで次の住居へ引っ越すわけですが、母子生活支援施設に入所していた人は、その先いったいどこで生活するのか?という疑問を持たれる方もいると思います。
今回は、実際に母子生活支援施設で生活していた私おやっさんが、これまでに関わってきた人がどのようなところで暮らしているのかを書いていきたいと思います。
母子生活支援施設での暮らし
これまでにも母子生活支援施設での暮らしについては、他記事で書いてきましたので、ここではざっくりと説明します。
- 18歳以下の児童とその母親が入所できる施設です。
- 家賃は無料~格安でありますが、光熱費・食費などは利用者負担ですので家賃がかからないアパートという感覚です。
- 支援員さんが常駐していますので、子育てに関すること、生活のことなどの相談にのってもらえます。
- 施設ですので、決まりごとは多いです。
ざっとこのような施設です。
母子生活支援施設 実際の入所経験者が感じたメリットデメリット - トリプルLIFE
母子生活支援施設から退所したは母子はどこで生活をするのか?
ここから本題です。
時が来ればみんな母子生活支援施設から次の住まいへ引っ越すわけですが、いったいどんなところへ引っ越しているのかを書いていきます。
公営住宅
パッと思い浮かべるのが公営住宅ですね。実際に多くの母子が利用しています。施設にいる間に抽選に応募して当選したら手続きをして引っ越し…という流れが多いです。
ですが公営住宅に入居するには、「連帯保証人が必要」となります。
連帯保証人につきましては施設長がなってくれる場合もありますが、私が居たところでは「連帯保証人にはなりません」と言われていたため、頼ることのできる身内がいない家庭では高根の花状態でした…。
ですが、近年「家賃債務保証制度」が公営住宅でも導入され始めたり、そもそもの連帯保証人制度を廃止する自治体も増えつつあります。家賃債務保証制度を利用するにしても、保証会社の審査さえ通過できれば公営住宅にも入居できるようになり、公営住宅に入居するハードルがかなり下がりました。
(制度には地域差がありますので、気になる方はお住いの自治体にお問い合わせください。)
一般の賃貸
賃貸住宅を借りる人も少なくありません。
公営住宅のように抽選待ちすることもありませんし、場所によっては比較的新しい住居を見つけることもできます。
しかしながら母子家庭においては、賃貸入居はデメリットも大きくなります。
- 「母子」というだけで不動産屋で門前払いされがち(これは本当です)
- 公営住宅と比べると家賃は高い。
- 家賃を下げようと思うと、考えられないくらいの田舎の場所か古い物件になることも。
- 保証会社を利用すると保証料がかかる。
母親にしっかりとした収入があれば家賃支払いに関してはそれほど問題にはなりませんが、契約前の段階でかなり苦労はします。
- 母子家庭は大手の不動産屋さんではなかなか相手にしてくれません。
- 個人で経営しているような不動産屋さんなら親身に話を聞いてくれますが、まれにいい加減なところもあります。(友人が経験済み)
- 大手の名前の不動産屋さんでも、地元の企業がフランチャイズとして経営しているところは、母子家庭でも親身に話を聞いてくれます。
大手の不動産屋さんから「母子」というだけで門前払いされたというケースも聞いたことがあります。
だからと言って、個人で経営しているところなら良いのかと言えば必ずしもそうとは言えず、悪質な業者もいます。私の友人は個人の不動産屋で契約入居をした物件で、
- 入居当日から流しの水漏れが発覚し、直すように伝えるも結局修理には来なかった。
- 排水管のつまりがあって困っている住民がいても見て見ぬふり。
- 挙句の果てに「どうしても直したのであれば業者を手配するから後は自分でやってね。(支払いも)」と入居者に丸投げ。
など、管理状態がお粗末だったのです。この物件は不動産屋さんが管理している物件でしたので、不動産屋さんそのものがいい加減な仕事をしていたのだと思われます。
後に友人は、地元のそこそこ名の知れた企業の不動産屋さんで賃貸契約を結び、引っ越しをしたのでした。この企業は、誰もが知っている大手不動産屋さんのフランチャイズを行っており、「大手か…」とあきらめかけていたものの、親身に話を聞いてくださり、無事に契約することができたのです。
不動産屋さんの話では、
「賃貸は契約してもらってなんぼの世界だから、門前払いするとかありえないと思います。母子の方だって充分契約することができますよ。」
と大手不動産屋さんの対応に怒ってくれました。これだけでも救われる気持ちです…。
URに入居する
一般賃貸と別に書かせてもらったのは、URがかなり独特な契約であることからです。
- 礼金なし(敷金はかかります)
- 仲介手数料なし
- 保証人なし
- 更新料なし
- 保証金なし
で借りることのできる賃貸物件です。
元々日本住宅公団と呼ばれており、管理している建物は昭和40年代~50年代のものが大半を占めています。
取り扱い物件自体は古いですが、内装をリニューアルしている団地もありますし、古いままですが格安で貸し出している団地もあります。
ただし、入居するにあたっての基準が少し厳しめでもあります。ある程度の収入(家賃の4倍以上)があることが条件となっており、それに満たない人は家賃の100倍の貯蓄を証明することになります。
実家に帰る
意外と多いのは、実家に帰る人でした。一見普通のようにも感じますが、これらの人たちの多くは夫からのDV・モラハラが原因で入所した人です。
実家に帰るのであれば初めから実家にいさせてもらえばよかったのに…と思ってしまいますが、母子生活支援施設を選んだことにも理由があるのです。主には2つです。
- 夫に実家の場所を知られているため、追跡を恐れての入所。
- 実家にそこまでの居住スペースがない。
夫の追跡を恐れるケース
これは私も当てはまることですが、夫から物理的に離れることで「自身の安全確保」と「離婚に向けた準備」ができます。
ピリピリしていた生活から解放され、ホッとできる場所を手に入れることができたことへの安心感もあり、じっくりと離婚に向けて考えることができるようになります。
(基本的には母子生活支援施設に入所しても、弁護士手配を含め自分自身で行わなくてはならなかったのですが、入所当時は落ち着いて過ごすことができる場所ができたことはとてもうれしかったです。)
加害者から見て被害者が「身内」であろうと「他人」であろうとそんなことはたいした問題ではないからです。加害者から見ると被害者は「自分の心を傷つけた憎い相手」かどうかということだけです。
あとは、子どもの問題です。
夫と妻は離婚してしまえば他人となりますが、子どもは夫の子でもあります。母親自身は離婚を果たして元夫と他人となっても、ふとした拍子で元夫が子どもと接触して…ということも充分にあり得ます。居場所が元夫に把握されているという気持ちの悪さもありますね。
結婚して新しい夫と暮らす
新たな出会いに積極的なお母さんは、母子生活支援施設に入所している間に交際を経て結婚までこぎつけてしまう人もいます。退所時には結婚(予定)相手と共に過ごすことを前提に準備をしていますので、住居に困ることはなさそうです。
私自身は「子どもとの落ち着いた生活を他人に壊されたくない」ので結婚に対してひがんだり・妬んだりという感情は一切ありません。その人が幸せであればまあそれはそれで…という考えです。冷たいようですが、他人のことですしね。
しかし、結婚を機に退所する人は現在の入所者に配慮する必要はあります。
私が利用している間(1年8か月)でも数世帯は「結婚退所」をしています。(母子生活支援施設は女性の集まりですので噂話はあっという間に流れてきます。)
退所に向けてその都度職員さんと打ち合わせをしているのですが、ところどころ「のろけ」が入ることも事実(笑)正直な話、当時の入所者の一部からは反感を買っていました( ゚Д゚)
母子生活支援施設は様々な事情で利用している世帯ばかりです(一般的には幸せでないことの方が多い)ので、現在利用している人たちに配慮した行動をとることが望まれます。
結婚退所後の施設利用は遠慮することが望ましいかも
結婚を機に退所された母子が「子どもを預かってほしい」と一時保育を利用することもありました…。この母子については「再婚をした」こと以外の詳しい事情は分かりませんが、このとき施設側は元利用者だからという理由で、複数回にかけて一時保育をしていました。
しかしここで疑問。母子生活支援施設の特性上、母子世帯でない世帯の子を預かる行為そのものが本来の母子生活支援施設の目的から外れているのではないかと思っています。
確かに「元利用者」ではありますので、アフターケアを受ける権利もあるのかもしれませんが、元利用者であっても結婚をされた場合には、施設の利用(アフターケアも)は辞退するべきであると思います。(ここらはモラルですかね💦)
母子家庭でなくなった場合の急な保育等の依頼は、民間の一時預かり等を利用するべきであると私は思います。
年々増え続ける利用者を抱え、職員さんも暇ではありません。「今、施設を必要としている人」のために働かなくてはなりません。退所後は経済的な自立をした人も含め、施設に頼ることは極力控え、次世代(?)の人のために職員さんを譲ってあげましょう(#^^#)
さいごに
今回は、母子生活支援施設を退所後の母子はどのようなところで生活をしているのかについて書いていきました。
私は、市内にあるURの賃貸物件がお手頃価格であったため、書類数枚と印鑑証明を提出することで比較的簡単に賃貸契約をすることができました。
しかし入居から約2年後、暮らしている団地が一般企業に譲渡され、大家さんが変わった状態になってしまい、URではなくなりました。
特に入居し続けるにあたっての条件等の変更はなく、入居当時のままの賃貸契約ですので特に困ることなく過ごすことができています。
ですが、URに関しては全国で縮小傾向にあるため、大都市圏以外の地域のUR住宅を中心に積極的に譲渡を行っているとのことです。(住民説明会でのUR職員の説明から)
これから先にURでの部屋探しをしようと思っても、自分が希望する範囲での住宅が見つからない可能性もありそうですね。これには気を付けてください。
ひとり親の皆さんが快適な居住空間を手に入れることができることを願っています。